■ポロリ癖が発揮された

——全6曲入りの「ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat.梅干し」も、残るは1曲のみ。「炎の聖歌隊[Choir(クワイア)]」である。実はこの曲、歌われている内容は、ステージにおけるファンとの再会である。9月18日に宮城県からスタートする待望のツアー。そのことも含め、最後に桑田に尋ねてみた。

 曲を作っていたときにツアーの予定が決まりつつありましたので、ちょっとそれを、におわせるような歌詞を書いちゃおうと思いましてね。世の中には発表されてませんでしたけど、私の“におわせ主義”というか“ポロリ癖”が発揮されたといいますか……(笑)。

 こんなこと言うと調子いいみたいですけど、我々はどこを向いて音楽をやっているかといえば、やっぱりファンの人たちなんですね。何をするにも、彼らが居てこそですから。そもそも僕が、この年齢になってもワクワクすることといえば、どこかでファンの方々と繋がっていることですし、特にこの「炎の聖歌隊[Choir(クワイア)]」というのは、そういう曲なんです。

■次世代ライブのヒント

 ツアーは、ともかく感染状況に、細心の注意を払うことでしょうね。スタッフは万全の感染防止対策を考えてくれています。そうしないと、お客さんももろ手をあげて観に来ていただく気分にはなれないでしょうし。

 ステージに立つ我々も、例えばお客さんが半数の客席を見渡して、「やはりいつもの半分だな」と感じるのか、それとも次なる新しいステージなり、音楽表現なりのヒントを見いだすのか。そこが大きなポイントかなと思うんです。

 今がそのタイミングということじゃないでしょうか。やはり、いつもとはまったく違います。以前のように、ライブが終わればみんなで打ち上げを、というわけにもいかないですし。

 無観客ライブを昨年やりましたが、お客さんの歓声や拍手の音を、マシンで重ねてみたりしたんです。リハーサルの段階では、「何やってんだかなぁ」ってむなしく感じたけど、いざオンラインライブとして観てみたら、これが意外によかったりもした。実際に試してみないと分からないことは、たくさんあるんでしょうね。

 今回は有観客ですけど、とりあえずは「今やること」「やるべきこと」をやりつつも、次の時代のライブというものに向けて、少しでもヒントを見つけられたらと願っています。

 いずれにしても、ツアーを前にして、6曲入りの「ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat.梅干し」を出せました。もう6曲を新たに作って、12曲入りのフルアルバムにしようとしたら、さらに1年以上かかったでしょうから。「SMILE~晴れ渡る空のように~」は、一昨年の7月に制作発表された曲ですし、あの曲も含め、ここでいったん作品をパッケージにすることができて、本当によかったと思うんです。

(音楽評論家・小貫信昭)

AERA 2021年9月27日号

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?