スポーツに限らず、音楽もそうです。僕も若いころは、やれオリコンで1位を取るとかミリオンヒットを続けるとか、そんな価値観のなかにいましたので。さすがに65年も生きていると、それだけが大事なものではないな、と思います。
特に今、我々はコロナ禍にいるわけだし。勝者だとか敗者だとかではなく、この困難な中でも“夢を見ていられる何か”を探すことのほうが、よほど大切なんでしょうね。
——いま現在、自身が出演するユニクロのCMで流れているのが、「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」である。聴けば誰の心も上向きになる、日々の活力が湧いてくる、桑田の「真骨頂」とも言えるナンバーだ。
この曲は、阿久悠さんや筒美京平さんをはじめ、1960年代後半から70年代にかけて「歌謡曲」というジャンルを作った先達への、オマージュでもあるんです。
僕は洋楽が好きだったこともあって、歌謡曲を生み出してきた方々の偉大さに気づいたのはずいぶん後になってからなんです。でも“凄(すご)い!”と分かってからは、リスペクトに変わった。僕がいう歌謡曲の凄さというのは、当時、スタジオで伴奏を受け持った優秀なミュージシャン、一人一人の存在も含めてのことです。
「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」をレコーディングした時も、ミュージシャンの人力に頼ったところは同じですよ。あの人とあの人とこの人が集まってくれれば、演奏の音圧も、アイデアも、曲の方向性も決まっていくだろう、って。実際、そうなりました。よく、ケミストリーが大事と言いますが、まさにそうでしたよね。
——ほかにも、このミニアルバムには個性豊かな作品が並んでいて、それぞれが独立した物語を奏でている。自らが出演したSOMPOグループのCMで流れる「金目鯛の煮つけ」も、まさに物語を感じさせる曲の一つ。
■きっかけは「深夜食堂」
白状してしまいますと、この曲のきっかけは、小林薫さんが出ていた「深夜食堂」というドラマなんですよ。なんとなくですが、あの世界観をイメージして、演奏してくれたミュージシャンたちにもそれを共有したんです。