博士課程の間に十数本の査読付き英語論文を第一著者として執筆した。また国内外の大学だけでなく、研究所や民間企業との共同研究にも取り組んだ。カリスさんによると、当時書いた研究論文の引用回数は、現在では500回を数えるという。
就労経験や高い年収などはなかったが、こうした成果のため、博士課程2年目には高度専門職ビザ取得のための基準を大幅に超えていたという。だがビザ切り替えのために訪ねた東大の窓口からは「学生の申請は前例がない」という理由で断られた。散々揉めた挙げ句、当時リサーチアシスタントをしていた国立情報学研究所の協力もあり、「博士課程は専門職だ」と認めてもらい、高度専門職ビザを取得した。
その後も3人の大学教授に頭を下げて推薦状を書いてもらうなど奔走した。そして21年3月23日、研究業績を含む150枚の書類が法務省に認められ、日本の永住権を得た。
「本国へ戻るよう通達の手紙が2月に届いていて、3月末までに永住権がなければ兵役で連れ戻されることになっていました」
博士号を取得した2020年からは、日本で2番目に薬事承認された医療AIを開発した東大発ベンチャー「エルピクセル」でCEO補佐をつとめるなど、活躍の幅を広げていった。
今、カリスさんはAI関連のスタートアップ企業の立ち上げを進めている。いずれはこれまで研究してきた医療AIにも関わりたいと意気込む。その傍ら、YouTubeで科学的学習法や思考術を発信するのには、こんな思いがある。
「YouTubeで話している“Change of Shape”とは、昆虫が成長過程で姿かたちを変える過程の“変態”のこと。そしてAIは人々の『したい』という願望を具現化する存在だと思っています。自分自身、『変わりたい』と思ったから、地獄の底から這い上がってきた。脱皮して人生を変えたいと思う人が、なりたい自分になるための手助けをしたいです」
2度のどん底を越えて、AIの未来をけん引していく。
(白石圭)