担当の伊藤菊雄スカウトは、村瀬の同意を得たうえで、夜行列車で東京に連れ出し、電撃契約。エースが行方不明になった関大野球部は大騒ぎになったが、成年に達した本人が自分の意思で巨人に入団したのだから、最終的に認めざるを得ない。9月4日、村瀬を除名処分にした。

 それから3日後の同7日、村瀬は国鉄戦でリリーフとしてプロ初登板。そして同17日、ダブルヘッダー第1試合で、広島打線を3安打完封してプロ初勝利を挙げる。この日の2試合目も連勝した巨人は、8月19日以来の単独首位に立った。

 村瀬は10月1日の広島戦までに3完封を含む5連勝を記録。この結果、巨人はわずか1ゲーム差で中日を振り切り、2年ぶりの優勝を実現した。

 入札、二重契約、引き抜きと、何でもありだった自由競争の時代。ドラフト制への移行も、なるべくしてそうなったと言うべきかもしれない。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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