大学の後輩たちと劇団を旗揚げしたのが30年前。オリジナル芝居で扱うテーマは、「人間のバカ哀しさ」だった。劇団の名前を「猫のホテル」としたのは、当時中心になって戯曲を書いていた後輩に、「こんな名前はどうですか?」と提案されたからだ。その後輩は、大島弓子さんの描く漫画のような、女性に好まれる、ファンタジックな世界観の作品を作ってみたい思いがあった。
「私は、自分から『これにしよう』なんて恥ずかしくて言えない性格だし、特にこだわりもなかったので、『いいんじゃない。異論はないよ』と答えました。結果的に、猫好きが多い劇団になったので、生まれるべくして命名された名前なのかな、と。ただ、勤めていた会社では、『千葉さんってオヤジだよね』と言われたこともある私は、女性が好むファンタジックな作品を作りたいという彼の意見とは、全く相いれなかったです(笑)」
結局、会社は12年勤めて辞めたが、そこまで仕事を続けた理由の一つは、芝居だけでやっていくなどと言ったら、親が反対することがわかり切っていたからだ。
「自分が家父長制に縛られていたかもしれないと気づいたのは、ごく最近のことです」
幼い頃から積み重なっていた“小さな違和感”。それらは、千葉さんが戯曲を書く原動力にもなった。これまで書いてきた戯曲は8割方男性が主人公。そしてその主人公たちは、大概が、自らの恥の美学を貫けぬまま人生の敗者となった。
「もう一つ、ごく最近気づいた理不尽さは、長く付き合っていたパートナーと入籍したときに感じました。入籍すると、女の人は当たり前のようにそれまでの名前を失う。私もなんだかふわふわしちゃって、居心地が悪かった(笑)。私ごときがフェミニズムとか女性問題について語れるわけでもないのですが、今この時点で、過去を振り返りつつ、今までうちでは取り上げなかった女性の芝居を、男性8割女性2割で作ってみようと思った。それが、『ピンク』です」