■有識者検討会に遺族の名はなし
再発防止に向け外部の有識者による検討会を設けることも発表されたが、そこにも遺族の名はなかった。未和さんの母・恵美子さん(73)は言う。
「有識者検討会のメンバーをNHK担当者に尋ねた時、当然のような口調で『弁護士と医者です』と返され、言葉を失いました。家族を失い、誰よりも苦しんでいるのは私たち遺族です。識者を集めてお手盛りの調査や検討を進めるのであれば、それはNHKの『独りよがり』ではないかとその場で伝えました」
川人弁護士もこう話す。
「検討会自体に異論はありませんが、現場改善には遺族の声が欠かせません。その意味でも、佐戸さんやAさんのご遺族に会に加わっていただき、意見をヒアリングする措置が必要です」
この点について、NHK広報局からは「検討会では、医療や労働法制など外部の有識者の方々にさまざまな具体的な助言をいただいています。長時間労働そのものをなくしていく取り組みについては、ご遺族には勉強会や研修会などでご意見を伺っており、今後もご意見を伺ってまいります」と回答があった。だが、守さんは「未和の死後、私たちの要望に対して、NHKは一貫して『聞き置く』だけのスタンスで対応してきました。未和の過労死はもう済んだことで、Aさんの死とつなげてほしくない。そうした意図を露骨に感じます」と話す。
11月8日に放映された「クローズアップ現代」では「密着!トラックドライバー 命を削る過酷労働の実態」と題し、運送業界の過労死事情が取り上げられた。だが、未和さんや、3カ月前に労災認定が下りたばかりのAさんの死については、終始、番組内での言及はなかった。局員の死を棚上げする姿勢が変わらない限り、真の組織改革が実現する日は遠いのではないか。(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2022年11月25日号