撮影:百々武
撮影:百々武

「十津川(とつかわ)村にもよく行きましたね。自宅から車で3、4時間。たまに車中泊をしたりしながら撮影した」

「山あいの集落に行くと、人との出会いがよくて」と言う。

「その風景には高齢化とか、明らかにさまざまな社会問題をはらんでいるんです。でも、そこで撮影していると、何よりも『あなたと今日、ここで出会えた』という、喜びみたいなものを感じた」

 そう言うと、百々さんは照れくさそうな笑みを浮かべた。

「で、2017年ごろ、匠の聚の職員に欠員が出て、求人していることを聞いたんです。それで、川上村に住むことを選んだ」

 移住については、「いろいろな事情が重なったんです」と打ち明ける。「このまま一生、写真の学校の先生を続ける」ことも考えた。

 一方、「川上村でイノシシ猟を撮影させていただいたり、匠の聚で村の小学生に写真を教えたこともあった。そんなわけで、この村には縁があった」。

撮影:百々武
撮影:百々武

■親子の写真交換日記

 川上村での生活が始まると、新鮮な驚きがあった。「まあ、人が近いんですよ」。

「役場職員の顔と名前が一致するなんて、いままでの人生でなかったし。郵便局の局長と仲よしで、なんでも聞けるとか。水道で困ったら、この人とか。すべてのことが人と近い」

 そのことが展示作品からもはっきりと伝わってくる。離島の作品からは旅人の視線を感じたが、今回の写真に写るのは百々さんのお隣さんたちの日常で、地元の人々とのつながりを強く感じる。

「近所の方に、『うちで飲みいよ』と、誘っていただいたり、村の寄り合いで集まったり」

 そんな生活の場面がある一方、伝統の吉野杉の伐採現場や、500年前から続く神事「朝拝式(ちょうはいしき)」を写した写真もある。そして、村の真ん中を流れる吉野川の風景。

「いままで出会うことのなかった人たちと、同じ風景を見ながら暮らしている。自分はそこで生まれ育ったわけではないんですけれど、この土地で体験していることをきちんと撮って残していきたい」

 作品は中判のフィルムカメラで写しているそうで、プリントする際には実家に足を運ぶ。百々さんの父親も写真家で、家には立派な暗室が備わっている。

「プリントは休日にやるんですけれど、フルタイムで働いているので、1時くらいに終えて帰るんです。そうすると、翌日、父がプリントチェックも含めて、仕上げ作業をしてくれる。父もぼくがどんな写真を撮っているのか、興味があるというか、まあ見てみるか、くらいの気持ちはあるんでしょう。親子で写真交換日記みたいなことしている(笑)」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】百々武写真展「生々流転 Life Eternal」
ニコンプラザ東京 ニコンサロン 10月26日~11月8日

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