1989年現役引退会見では目に涙を浮かべた若松勉。ヤクルト一筋19年、42歳まで現役を全うした(C)朝日新聞社
1989年現役引退会見では目に涙を浮かべた若松勉。ヤクルト一筋19年、42歳まで現役を全うした(C)朝日新聞社

 最後に監督時代の最も有名なエピソードを紹介する。

 01年終盤、優勝に王手をかけながら、0勝3敗1分と足踏みしていたヤクルトは、10月6日の横浜戦で6対4の逆転勝利を収め、4年ぶりのリーグVを決めた。

 そして、歓喜の胴上げの直後、若松監督のインタビューでの第一声は「ファンの皆様。本当に……あのお、おめでとうございます」だった。

 本来なら「ありがとうございます」と言うべきところを、「おめでとう」とした“名言”に、ナインやヤクルトファンはもとより、横浜ファンまで爆笑。同年の流行語大賞の語録賞にも選ばれた。

 だが、若松監督は自著「背番号1の打撃法」(ベースボールマガジン新書)の中で、終盤の足踏み状態のときでも、ファンが温かく見守り、熱く応援を続けてくれたことから、「私が『ありがとございます』と言うより、『おめでとうございます』と言ったほうが、感謝の気持ちを表すにはふさわしいと思ったのである」と言い間違いではなかったことを明かしている。

 そして、本拠地・神宮でのシーズン最終戦となった10月12日の広島戦の勝利後、若松監督は再び“名言”を披露する。

「1週間後のオールスター……。あっ、日本シリーズでも、今まで以上のご声援をお願いします」。真面目人間ならではの不思議な魅力と言えるだろう。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

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