■手がかかる部下に手をかける理由

 僕もまだ道半ばです。しかし日頃から、日常のささいな会話、仕事へのフィードバックを通して、「コーチング」を掛け合わせたマネージメントを行っています。

 たとえば、責任感の強いメンバーのEさんに、大事なプロジェクトの資料づくりを依頼したことがありました。締め切りの前日に進捗の具合が気になり、「Eさん、明日が当初約束していた資料提出期限だけど、いま何%くらいまで進んでいる?」と聞くと、「50%です」との返事がありました。

 これに対して、「明日までに間に合う? 大丈夫?」と聞くのは自然な流れかもしれませんが、ここでEさんは責任感が強いことを思い出してください。

 Eさんにとって、この質問はあまり意味がありません。なぜなら責任感が強い人の多くは、一度やりはじめた仕事に対して「NO」と言えないのです。ですので、「大丈夫?」と聞かれると、本当は大丈夫じゃなくても、「大丈夫です」と答えてしまいがちです。

 そこで僕は、少し質問を変えて、「例えば、明日提出するのと、もう1日後ろに倒して、あさって提出するのだったら、質はどのくらい変わる?」と聞きました。

 すると、「もう1日待ってもらえたら、予定通りに提出するより質は80 %上がると思います。ただ実は、◯◯で悩んでいて、想定どおりに進んでいなくて……」と本音を話してくれたのです。

 このように、メンバーの特性にあわせて質問の仕方を変えることで、僕はメンバーの状況をより正確に把握することができています。

 対話型リーダーは、ビジネスの成果を最大化させるカギであり、チームメンバーの自己開発と成長促進につながります。

 多くのリーダーが人に任せられないのです。世界で活躍するリーダーですら、コーチの役割を持ったリーダーとして、その知識をマネージメントに生かせている人は少ない。それゆえに、ここに大きな価値があり、成功のチャンスがあります。

 対話型リーダーという価値観には、強くしなやかな組織をつくるヒントが隠されています。

(構成/猪俣奈央子)

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