「2018年から、社員の奨学金返済額をそのまま賞与に上乗せする形で支援をしていました。当社は研究開発型の企業のため、理系の学生が欲しい。しかし理系の学生は奨学金の負担も大きく、返済に苦労している。それを当社代表の今井が知り、奨学金返済支援を始めました。ただこの方式では、所得税や社会保険料が上乗せ分から引かれてしまう。そんなとき、社員が損をせずに済む制度が始まるということを、税に関する記事で読み、4月から制度を導入しました」
制度の適用条件はとくに設けておらず、正社員であれば全員が制度の対象となる。9月末時点で6人の社員が制度の対象となっており、総額約90万円の代理返還を行ってきた。単純計算で、1人あたり毎月約2.5万円の代理返還を受けていることになる。
「本人が毎月いくら返済しているのかを1円単位まで聞き、その金額をまるまる代理返還しています。金額の上限も設けていません。18年時点からこうしたルールで上乗せによる返還支援をしていました」
若手社員からは喜びの声が上がっているという。
「いま、制度の対象者は20代後半の、返済が終わるまで先の長い人が中心です。9月には26歳の理系出身の社員が中途採用で生産管理の部門に入ってきたのですが、決め手は福利厚生(この制度のこと)だと言っていました。代理返還になったことによって、税負担がなくなることを喜んでくれました。また代理返還制度を導入したことは、採用活動だけでなく、末永く勤めてもらいたいという弊社の企業理念にも合致しており、双方にとって大きなプラスになるのではないかと思います」
2004年、旧日本育英会が日本学生支援機構に改組されて以来、3か月以上の延滞者数や延滞債権額は徐々に下がっている。
日本学生支援機構の広報担当者は、「『返還金を確実に回収し、回収率を向上させる』『返還金回収業務について、業務効率の推進を図る』といった目標達成のため中期計画・年度計画を立て、奨学金事業を行ってきた」と話す。施策の例としては、「振替口座(リレー口座)の加入徹底」「返還相談に係るコールセンターの設置」「延滞3月以上の者に係る回収委託の実施」「個人信用情報機関の活用」「法的処理の実施(人的保証)」などがあるという。
企業による代理返還制度については、「延滞問題の解決のみを目的とした施策ではない」としつつ、「施策の結果、2020年度末までに回収率等の状況が改善していることから、一定の効果があったものと考えており、今後も各種施策を継続し、返還金の回収について一層の改善をはかっていきたい」という。こうした施策の周知が今後は求められている。
(白石圭)