全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年11月14日号には、スノーピークアフターサービス課の高橋朋之さんが登場した。
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新潟県内にある「アフターサービスルーム」には、強風で布が裂けてしまったテントや、ガスが出なくなったバーナーなどキャンプ道具が次々に集まってくる。
スノーピーク製品は「永久保証」をうたい、保証書はついていない。
「見た目が変わらず使い勝手がいい状態で戻すには、どう修理したらいいか」
ユーザーを思って日々考えを巡らせ、ミシンを操る。
高校卒業後、ファッション関係に興味があり国産ジーンズで知られる岡山県倉敷市の縫製会社へ就職した。
ブランドの担当者に自分で縫ったサンプル品を提案する仕事で縫製技術を高めた。
約5年勤め、新潟にUターン。地元のクリーニング会社に就職し、生地の性質などを学んだ。
キャンプが趣味になったのはそのころだ。年間50泊したこともある。スノーピーク製品に憧れはあったが「テントは当時の自分には手が出なかった」。しかし、求人を見るとアフターサービスの募集があり、縫製の経験が生かせると考えた。
ミシンを使った修理が担当。道具の修理方法を考える「診断」の後、修理に取りかかる。場所や生地によって方法は違い、一つとして同じ修理はないという。
社員全員がキャンパーだ。キャンパーだからこそユーザーの視点がわかる。それが、修理に生かされた経験があるという。
テントのファスナー部分は素材が入り組んでいて取り替えが不可能だった。これまではボタンと「マジックテープ」に変えていた。
ただ「ボタンを留めている間にテント内に虫が入ってくるかもしれない」。使い勝手にこだわり、新しいファスナーを上からかぶせて使う方法を発案。今では標準的な修理方法となった。
入社後間もなく、強風で大きく破れ、生地の一部がなくなっていたテントが持ち込まれた。
返却まで時間がかかるし、高額になると伝えたが、「思い入れがあり、どうしても直してほしい」と懇願された。二度と手に入らない限定品だった。3日以上かけて作業し、元通りにしてみせた。
「いつまでも使ってもらえるように、修理できませんとは言いたくないです」
(朝日新聞記者・長橋亮文)
※AERA 2022年11月14日号