台湾海峡を通過する米海軍の艦船(提供:US NAVY/AFP/アフロ)
台湾海峡を通過する米海軍の艦船(提供:US NAVY/AFP/アフロ)

 外交評論家の孫崎享氏はこう指摘する。

「今回、台湾情勢を巡る安全保障問題が習氏に有利に働いたと見ています。先日、私は元駐日中国大使を務めた清華大学の教授たちとオンラインで会談しましたが、彼らはこう語りました。『米国は意図的に対立軸をつくり出しており、ウクライナのような事態が台湾でも起きるかもしれない。いま私たちは指導体制を弱体化させるわけにはいかない。私の周りは絶対に揺るがない人間で固めたいという習氏に、誰も異論は言わなかった』。中国は、米国が台湾問題でも危険な介入をしてくるのではないかと、強い危機感を抱いているのです」

■党人事に見える台湾危機の想定

 米国のバイデン大統領は9月、テレビのインタビューで中国が軍事侵攻した場合、米軍は台湾を防衛すると明言したばかり。今年5月の日米首脳会談後の記者会見に続いて、バイデン氏が台湾防衛義務に言及するのは、これで4回目だ。

 中国は台湾危機を想定した布石も打っている。中国人民解放軍の最高機関である党中央軍事委員会の人事で、制服組トップの副主席に張又侠(ちょうようきょう)氏(再任)、何衛東(かえいとう)氏が選出された。何氏は台湾方面を管轄する東部戦区司令官を務めていた人物だ。習氏は党大会の政治報告で台湾について、平和統一を目指すとしつつ、「決して武力行使の放棄を約束しない」とも語った。ただ、前出・富坂氏はこう説明する。

「武力行使は放棄しないという文言は昔から入っています。ここ数年で新たに入れられたのは『その標的は、外部勢力の干渉と一部の台湾独立分子及びその活動』という一文。つまり、武力行使の対象は台湾ではなく、台湾近海で挑発をくり返している米国だといっている。中国が急速に軍事的緊張を高めた時、米国は台湾防衛のために犠牲を払うのか。その本気度が試されることになります」

 8月、中国はペロシ米下院議長が訪台したことに猛反発。弾道ミサイルを発射し、うち5発が日本の排他的経済水域内に落下した。中国は約2千発の中距離ミサイルを保有するとされ、射程は1500~4千キロで日本やグアムを射程に収める。

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