常務委員に選出されなかった胡春華氏
常務委員に選出されなかった胡春華氏

 共青団への冷遇も今に始まったことではない。共青団トップの第1書記は党中央指導部入りを前提とするポストだったが、習氏は2017年の人事で当時の第1書記を、食品の安全問題などを担当する国家質量監督検験検疫総局の7番目の副局長に据えた。このドラスティックな人事は「断崖降格」と形容されたほどだった。文化大革命時の下放によって長年にわたって農村で過ごした習氏は、共青団のエリート意識を嫌ったといわれている。

新体制で中国共産党中央政治局常務委員入りした李強氏
新体制で中国共産党中央政治局常務委員入りした李強氏

 だからといって、習氏と胡氏、李克強氏との間で軋轢(あつれき)が生じているわけではないという。胡政権だった07年に習氏と李氏は同時に常務委員に昇格。序列は習氏が上で、翌08年には副主席に選出されている。胡氏は共青団直系の李氏ではなく、習氏をトップへと育て上げたのだ。富坂氏が解説する。

「なぜ、習氏に権力が集中したのか。その謎を解く鍵は、昨年、中国共産党が行った『歴史決議』についての国営新華社通信の解説文にあります。胡政権の末期には、貧富の差や生態環境の破壊などさまざまな問題が噴出したとして『科学的なトップダウンが必要だ』と書いています。つまり、集団指導体制を否定し、習近平1強をつくったのは党なのです。彼らの共産党支配を守るという共通認識は、私たち日本人が思っているよりもずっと強いのです」

 習政権は、中国の国内総生産(GDP)を倍増させ、軍事力も急速に拡大して世界に脅威を与えうる力を持つに至った。中国共産党は、この10年間の成功体験の継続を望んだのである。

 今回、常務委員に選任されたのは習氏以下、序列順に李強(りきょう)・前上海市党委書記、趙楽際(ちょうらくさい)・前党中央規律検査委書記(再任)、王滬寧(おうこねい)・前党中央書記処筆頭書記(再任)、蔡奇(さいき)・党中央書記処筆頭書記、丁薛祥(ていせつしょう)・党中央弁公庁主任、李希(りき)・党中央規律検査委書記の7人。新任の4人のうち李強、蔡、丁の各氏は習氏の地方行政官時代に仕えた元部下で、自らの側近で固めた陣容だ。

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