加藤が立ち上がったきっかけは、イタリアの映像だ。人工呼吸器が足りず患者を救えないとの報道だった。人工呼吸器を作れば命を救えるのに。
「日本でも機器不足がおこっているはずと思いました。医療現場で戦う人のために、感染して生死の分かれ目に追い込まれている人のために、ものづくりで役立つ。製造業の力を見せるときでした」
1社依存から抜け出して
強みを生かす仕組み作り
東京の浅草からほど近くにある雑居ビル。その中に「キャディ株式会社」がある。起業は2017年。ただいま600を超える町工場をネットワーク化、パートナー加工工場として活躍してもらっている。こんなものを作ってほしいと頼んでくる発注企業は5千を超える。
なぜ社名が「キャディ」なのか。加藤は二つの意味をこめた。ひとつは、コンピューターによって設計を支援する「CAD(キャド)」で描いた図面を使うから。もうひとつは、名(迷)ゴルファーを支援するキャディーのように、ものづくりのスペシャリストを支援したいという思いだ。
キャディがしているのは、発注企業と町工場とを結びつけるマッチングサービスだ。
まず発注者から、ほしい部品の図面を電子データで送ってもらう。キャディのITシステムが解析し、自動製造原価計算、見積もり額の提示などを瞬時に行う。その金額で発注者がOKすれば、その案件を得意とする町工場に頼む。数十社への分散発注になることも。完成部品はキャディが検品し、発注者に納品する。
製造業の世界に横行していた横暴で無慈悲なコストダウン要求はない。赤字覚悟、不採算の言葉も無縁。生産を託された町工場は確実に収益が上がるから、モチベーションはアップ、アップ。
「加藤さんは加工技術のことに詳しく、私たちのことを分かってくれている。そして、取引先を増やしてくれた。ありがたい存在です」
そう語るのは、関西にあるパートナー町工場の社長。ある大手メーカーグループからの仕事を頼りにしていたが、1社依存から抜け出した。