岩元さんは「まずは正式な着用のルールやマナーを守るのが大原則」だと強調する。
「勲章の贈呈者やその場にいる方々に対して失礼のないように心がけることが大事。結婚式などのように、時代や流行によって移り変わりのある『着崩し』方をするのは禁物です。個性や自分らしさを出す必要はありません」
勲章の授与式や伝達式といった公の式典での装いには、実は一定の決まりがある。内閣府の告示「勲章等着用規程」で、叙勲や褒章の種類や等級に応じ、着用する服や勲章のつけ方を定めている。より具体的なドレスコードは、受章を伝える通知と一緒に届く「しおり」に書かれているとされる。
男性の場合、菊花章や旭日大綬章など、天皇から勲章が直接渡される「親授」のケースでは燕尾(えんび)服、それ以外はモーニングを着るのが基本だ。
■レンタルよりも買い上げが多い
「燕尾服はノーベル賞授賞式や宮中晩餐(ばんさん)会などの際に着る最も格式の高いフォーマルスーツ」(岩元さん)。それだけに、ドレスコードにはジャケットの襟部分に貼るシルク素材の「拝絹(はいけん)」や、「ピケ」と呼ぶ織り方の布地の胸当てがついた「イカ胸シャツ」といった、特有の耳慣れない言葉が並ぶ。
同様に、モーニングもドレスコードが決まっている。例えばジャケットには拝絹は用いないが、ポケットチーフは燕尾服と同じように「スリーピークス」と呼ぶ形にたたんで胸ポケットに入れる。ベストはジャケットと同じ生地(共地)のものか、グレー、パンツは黒とグレーの縞(しま)模様の「コールスラックス」……といった具合だ。
岩元さんが続ける。
「燕尾服の際にエナメル靴を履くようになったのは、礼装が靴墨で汚れるのを防ぐため。また手袋は、はめずに手に持つのは闘う意思がないことを示すため、といったいわれがあります。ドレスコードには一つひとつ由来や理由があり、おろそかにできません」
もちろん、女性にもドレスコードはある。