「ビートルズ」メンバーのリンゴ・スター(GettyImages)
「ビートルズ」メンバーのリンゴ・スター(GettyImages)
この記事の写真をすべて見る

 昨年、世界がコロナウイルスのパンデミックと戦っているときに、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の記者は匿名情報源が提供した内部文書を読み解くこと で忙しくしていた。

【写真】ICIJのシッラ・アレッチら記者はこちら

 アメリカのワシントンにあるICIJが1190万件以上の文書を入手してから、117カ国の600人の記者とデータジャーナリストの強大なチームを集めたのは2020年の秋頃。 日本から朝日新聞と共同通信がパートナーとして参加した。

 2・94テラバイトの電子ファイル群が金持ちと権力者の「秘密」を隠していた。自宅待機命令で数週間を家で過ごしたインド人記者が言ったように「ロック・ダウンにはぴったり」の調査だった。パンドラの壺というギリシャ神話のように、ICIJは受けた情報の宝庫に世界の悪が封じ込んでいたというイメージで、この調査報道は「パンドラ文書」と名付けられた。

 内部文書は英領バージン諸島、セイシェルやサモア諸島などの租税回避地(タックスヘイブン)に法人や組合を設立するのを専門とする14の業者、法律事務所から流出した。「パンドラ文書」はあまり知られていないオフショア金融システムを調査し、富裕層やコネを持つ人々が利益を得ている秘密の経済の仕組みを明らかにするものだ。

 ファイルの中に、契約書、機密メール、会計情報、スプレッドシートなどもあった。そのデータと実生活とのコネクションを理解するために、記者たちはカリフォルニアの崖っぷちに建つ豪邸、ドミニカ共和国の砂糖プランテーション、イタリアの汚染工場、ドバイの高層タワー、ドイツの介護施設、トルコの病院などを取材した。

◆エルトン・ジョンらセレブたちを直撃

 今回の調査では、27,000社以上の企業と29,000人のいわゆる最終受益者(ペーパーカンパニーの実質的な所有者)に関するデータが含まれていた。これは2016年に有名になった「パナマ文書」で特定された受益者の数の2倍以上に当たる。

 パンドラ文書には大統領や首相も含めて330人以上の政治家とビートルズ元メンバーのリンゴ・スター、ドイツ出身のモデルのクラウディア・シファー、歌手のシャキーラとエルトン・ジョンのようなセレブの名前は入っていた。スター、シファー、ジョンは租税回避の意図はないと取材に話した。

次のページ
租税回避での手口とは?