奇跡を実現し、主人公のモデルとなったアーナンド先生自身、独学の論文が学術雑誌に掲載され、ケンブリッジ大学の入学資格を得たが、貧しさのため諦(あきら)めた過去を持つ。
「ナマステ」と両手を合わせながらZoom画面に現れると、「A、B、Cも知らない、そういう家庭の子供たちばかりです。複雑で多くの問題を抱えている。私自身、両親は何とかケンブリッジに送り出そうとしてくれたが駄目だった。それが塾の原点になりました」
先生の父が繰り返し語っていたのは、「王の子が王になるのではなく、能力のある者が王になるべきだ」
当局の締め付けやマフィアの襲撃もあった。運営資金は行き詰まりもした。
「でも私は教え続けた」
と先生は言う。「教育があれば何万もの家庭が幸福になる。インド全体の発展につながるのです」
タイムは彼の私塾をアジアで最優秀の学習塾と評し、ニューズウィークは世界で最も革新的な教育機関の一つと紹介した。「日本のお父さん、お母さんにも教育には力があると知って欲しい。教育の大切さを知って欲しい」
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年11月18日号