TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。インド映画『スーパー30 アーナンド先生の教室』について。
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若者が既存の体制を打ち破ろうとする激動期には物語が生まれる。社会が盤石であればそれだけカウンターカルチャーとの摩擦熱が高まり、絶望と希望が軋(きし)み合って新しい価値観が誕生する。
イギリスの新首相となったのはインド系のスナク氏だが、豊かな人材目当てに資金が流れ込み、政治的にも経済的にも世界に打って出ようとしているインドも今そんな時期なのだろう。
高度成長の中、受験をめぐる凄(すさ)まじい競争を描いた映画『スーパー30 アーナンド先生の教室』に出会った。私塾を開き、貧しい家庭から子供たち30人を選抜、寮と食事を与えながら、世界三大難関試験と言われる理系大学IIT(インド工科大学)全員合格を目指すストーリー。デリーで運転手を親に持つ少女は生物工学を学びたいと目を輝かせ、その他にも「核科学者になりたい」「NASAで宇宙を研究したい」「相対性理論を勉強したい。光より速く走れば時間を超えられるんだ」
アーナンド先生は子供たちに、まず「1」という数字の重みを語る。「不合格と合格の違いは1点だけだ。そこで何千人もが泣く。その意味をわからなければIITは遠い」
教育とは励まし、連帯なのだとこの映画を観て感じた。
「金持ちは自らのために道を作り、我々には穴を掘った。我々は(そこに落ちるのではなく)跳ぶのだ。みんなで高く跳ぼう!」
ミュージカル仕立ての本作では子供たちがこんな歌詞を繰り返す。
「知は神の武器、正義を実現し、忍耐を獲得し、悪習を撲滅し、敵を撃退、全てを超越する……」
道のりは厳しい。インド特有の階級制度、能力があっても学びの場がない。子供たちは空腹に苦しみ、格差という壁にぶち当たる。しかし、♪疑問なしの人生は闇。明るくするのはクエスチョンマーク。“できない”を変えよう。“なぜ、できない”に♪と、どこまでも「考え抜く」ことを教え、見事、30人全員が競争率100倍と言われるIITに合格を果たす。