本作では、ゲームの主催者が公平性に強いこだわりを持っている場面が何度も描かれる。ゲームへの参加も強制ではなく、いちおうは参加者たちの意思を尊重している。伊東さんはこの部分に韓国社会の不満が反映されていると指摘する。
「主催者はこのゲームでフェアな戦いを重んじ、不正はないと主張します。韓国社会は激しい競争社会で、人々は頑張れば報われると信じて頑張ってきた。でも、もうそんな前提は崩れています。だから、フェアな競争が非常に難しい実社会と正反対に、ドラマの中ではフェアな競争空間を作ろうとしたのかもしれません」(伊東さん)
ギフン以外の参加者にソウル大卒エリート、外国人労働者、脱北者などがいるが、彼らにも韓国社会が色濃く出ている。
「ギフンの幼なじみのサンウは努力してソウル大を首席で卒業したのに、一度の失敗でだめになってしまいました。外国人労働者のアリは、韓国では積極的に外国人労働者を受け入れているけど、おそらく不法労働者。そんな彼がサンウを『社長さん』と呼びますが、韓国の外国人労働者が最初に覚える言葉が『社長さん』と言われているのでリアル。脱北者のセビョクについては、実際の脱北者も約8割が女性なので、女性という設定が自然です」(同)
大ヒットを受け、早くも第2シーズンへの期待が高まっている。
「監督が『やるとしても、一人で脚本を書くのはもう無理』と言っているので、チームで作るのではないでしょうか。本作の登場人物の前日譚などはありかもしれませんね」(小田さん)
ただの殺し合いではなく、厳しい現実社会をリアルに描きつつ、完成度の高いエンターテインメント作品となっている。観て損のない作品だ。(ライター・吉川明子)
※週刊朝日 2021年11月19日号