本作は登場人物が死を伴う危険なゲームに巻き込まれる“デスゲーム”ものだが、作品の本質は人間性を描いているところにあると言う。
「人は極限に置かれたときの選択によって人間性が明らかになるもの。ゲームが進むにつれ参加者の内面があらわになり、人間性について考えさせられるところがいい」(小田さん)
ファン・ドンヒョク監督も記者会見で、
「ゲームの内容より、参加者がどう行動し、どう対応するかにフォーカスしています。サバイバルゲームは勝者に注目しますが、『イカゲーム』は敗者に注目している」
と語っている。ギフンも、かつて働いていた自動車会社を解雇され、転落人生が始まった。
「ギフン役のイ・ジョンジェは、韓国の人気俳優。モデル出身のかっこいい彼がやさぐれた役をやる意外性があり、普通の男性を見事に演じています。他の俳優も実力派が多く、監督の過去作品つながりで、人気俳優のコン・ユや、ある大物俳優が友情出演しているのも見どころの一つ」(小田さん)
ではなぜ、本作がここまで世界的なヒットになったのだろうか?
「格差社会は韓国に限らない話で、敗者の人間ドラマにも普遍性があります。また、アカデミー賞を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』や、ボーイズグループBTSの世界的な人気もあって、韓国文化を受け入れる裾野が少しずつ広がってきたのでは」(同)
一方、韓国国内では、「なぜこれが世界的に大ヒットしているのか?」といった議論が起こっているという。約30年間、韓国で暮らしていたフリーライターで翻訳家の伊東順子さんはこう話す。
「当の韓国人が一番首をひねっていて、韓国の子どもたちが遊んでいた郷愁のゲームが残虐性の象徴みたいになっているのは悲しいという意見もあります。また、韓国社会が内包する暴力性への議論も起きています。でも、本作がここまでヒットしたのは、格差社会という世界共通のテーマで、役者も脚本もうまく、美術的な刺激もあり、完成度の高い作品だからだと思っています」