■舞台に出ることは大切
七之助:昨年は誰も外に出ない、街にも人がいないという状況が続きました。公演を行った時は、お客様も不安の中でしたが、今年は「本当に緊急事態宣言中なの?」という状況がある一方で、外出しないということをきちんと守っている方もいらっしゃった。お客様に見に来ていただきたいんですが、今年の方が混沌としていて気持ちのバランスが取りにくかったですね。自分を見失ってはいけないと思ってやってきました。
勘九郎:舞台があるというのはうれしいことですけどね。
七之助:本当に。飲食業など大変な方が多いのに、自分は舞台に出ている。それは純粋にありがたいなと思います。今年は後輩のことも考える年にもなりました。いつもだったらもっと多くの役を勤めているのになとか、先輩の舞台を見られるのにな、とか。今はコロナ対策で制約があるので、舞台に出られず、先輩たちの舞台を見て勉強できない後輩たちのことを考えると、これから大変だなと思います。私たちにとって舞台に出ることが大切なことなので、やはり場がないと。今年は少しは歌舞伎界を考えるようになりました。
――この公演を最後に赤坂ACTシアターが改修工事に入る。
勘九郎:ひと区切りという節目の時、TBS開局70周年というおめでたい時に歌舞伎を選んでいただき、誇らしい気分です。父が始めた赤坂大歌舞伎がこうして実ったことを父も喜んでくれていると思います。関わってくださった人々への感謝と、見に来てくださるお客様には現実を忘れ、楽しんでいただけるような公演にしたいと思います。
七之助:私も皆様に少しでもパワーをお届けできるよう、喜んでいただけるよう、一生懸命進んでいきますので、何か感じて帰っていただければ。父が遺してくれたものを今回は私たち兄弟だけでなく、勘太郎と長三郎も加わって何か感じることができると思いますし、中村屋にとりましても、とても思い出に残る公演になると思います。
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2021年11月15日号