欧米を中心に白内障の早期で手術を受ける人が増えつつある。眼内レンズの進化で、眼鏡不要の可能性が広がっているからだという。AERA 2021年11月15日号は、眼科医に最新事情を聞いた。
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新しい人生が始まりました。気持ちが明るくなり、何かをやろうという意欲が湧いてきました──。東京歯科大学水道橋病院眼科のビッセン宮島弘子教授のもとには、白内障手術を受けた患者からの手紙が何通も届いている。いずれも「嬉しくてつい書いてしまった」という気持ちがあふれるものばかりだ。
「目からの情報が8割と言いますが、白内障の手術で視力を取り戻すことで、読書やおしゃれなど諦めていた楽しみを取り戻せる人が多いのだと思います」(宮島さん)
白内障は、目の中でカメラのレンズのような働きをする水晶体が濁り、集めた光が十分に眼底に届かなくなる病気だ。一般的には加齢による白内障が多く、患者の9割が65歳以上。だが、早い人では40代から発症する。症状としては「視界がかすむ」「ものがぼやけて見える」「視力低下」「ものが二重三重に見える」「光を眩(まぶ)しく感じる」などだ。
■白内障でなくても手術
白内障の治療は、角膜を切開して濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術しかない。いわば、カメラのレンズを濁りがない新たなものに取り換えるのだ。点眼薬もあるものの、進行を遅らせる程度で、水晶体の濁りは取れない。かつては、軽症のうちは点眼薬で対処し、日常生活に支障をきたすようになれば手術、という流れだった。しかし近年、欧米を中心に白内障手術に対する考え方が変わってきている。
「白内障の早期で手術を受ける人が出てきているのです。中には、白内障でなくても手術を受ける人もいます」(同)
理由は二つ。まず、白内障手術の安全性が非常に高まっていること。次に、眼鏡やコンタクトレンズがほぼ不要になる眼内レンズが登場したこと。特に、後者によるものが大きい。
現在使われている眼内レンズは、大きく分けて「単焦点型」「連続焦点型(3焦点型を含む)」「焦点深度拡張型」の3タイプ。このうち、最初に発売されたのが、単焦点型だ。唯一、健康保険が適用される。遠距離か近距離のどちらかに焦点が合い、焦点が合わない距離を見るときは眼鏡が必要になる。