2008年には遠距離と近距離に焦点が合う2焦点型が登場。しかし、中間の距離が見えないため、そこを見るには眼鏡が必要だった。それが19年、「遠距離も中間も近距離もすべてに焦点が合う眼内レンズ」として、日本で初めての3焦点型が発売。さらに21年、同じく遠距離も中間も近距離もすべてに焦点が合う連続焦点型が発売された。
単焦点型と連続焦点型(3焦点型を含む)の中間的な位置付けなのが、17年発売の焦点深度拡張型だ。焦点の数を増やすのではなく、焦点が合う位置の範囲を広げたもので、見え方としては単焦点型に近い。単焦点型と同じくらい遠くが見え、見える範囲が中間まで広がるが、近距離の見え方は連続焦点型より劣る。場合によって、眼鏡が必要になる。
たとえば、観光地で遠くの景色から手元のガイドブックまですべて眼鏡なしで見えるのが連続焦点型。焦点深度拡張型は、遠くの景色は眼鏡なしでOKだが、ガイドブックを見るときは眼鏡が必要かもしれない。
眼鏡の要不要の面だけ見ると、連続焦点型は、単焦点型、焦点深度拡張型に勝るように思える。しかしマイナス面も。濃淡がはっきりしない「コントラスト感度の低下」や、強い光がまぶしく感じたり光の周辺に輪がかかって見えたりする「グレアハロー」が起こる可能性があるのだ。この二つは、焦点深度拡張型でも起こり得る。生活の中で何に重きを置いているかを考え、眼内レンズを選ぶべきだ。
「とはいえ、眼鏡やコンタクトレンズがないとほとんど見えない、眼鏡やコンタクトレンズの生活が不便だという人にとっては、早くに手術を受け、連続焦点型の眼内レンズを入れることで、眼鏡を使わずに済むようになる。今後は日本でも、早期の白内障でも手術を望む人が出てくるのではないでしょうか」(同)
■選定療養の対象になる
連続焦点型、焦点深度拡張型は保険が適用されないが、20年4月から基本的な手術は保険、多焦点の差額が保険適用外で自己負担という「選定療養」の対象となった。施設で異なるものの、自己負担額は片目で20万円前後から30万円前後だ。一方、単焦点レンズは保険で、自己負担額が片目3万~5万円。
なお、白内障は両目に発症することがほとんどだが、手術は片目ずつが一般的。片方の目を連続焦点型の眼内レンズにし、コントラスト感度やハロー・グレアの様子を見て、「大丈夫そうだからもう片方も連続焦点型」「コントラスト感度やハロー・グレアに慣れないからもう片方は単焦点型」ということもできる。医療機関によるが、日帰り手術、入院手術の二つの選択肢がある。(ライター・羽根田真智)
※AERA 2021年11月15日号