岸田文雄首相が、保育士や介護士らの賃上げに意欲を見せている。9日に開かれた政府の会議で「看護、介護、保育、幼稚園などの現場で働く方々の収入の引き上げは最優先の課題」と表明し、近く決定する経済対策に盛り込む方針だ。だが、現場で働く保育士のあいだには「本当にお金が自分たちに回ってくるのか」という不信感もある。それは、行政から保育現場にお金が渡る仕組み自体に、大きな問題があるためだ。
「重労働なのに低賃金」とも言われ続けてきた保育士の仕事。こうした状況を改善し安定的に保育士の数を確保すべく、国は2015年に「処遇改善等加算I」を新設、17年には「II」が設けられた。これは、勤続年数や、国が新たに設けたリーダー的な役職になることで、給与が加算される仕組みだ。
ただ、現場の保育士がその恩恵を受けたかと言えば、必ずしもそうではない。一例をあげよう。
都内の保育所に勤務する20代後半の女性保育士。勤続7年以上、職場の新たな役職である「専門リーダー」になったため、給与が月4万円増えるはずだった。だが、実際に増えたのは2万円。ほぼ新人に当たる後輩の女性保育士は、なぜか月4万円増えていたという。
「保育の世界では、まったく珍しい話ではありません。経営者による恣意的なお金の運用が許され続けているからです」と話すのは、保育士らから労働問題などの相談を受けている労働組合「介護・保育ユニオン」共同代表の三浦かおり氏だ。
どういうことなのか。
私立の認可保育所には、市区町村から毎月、運営に関する「委託費」が支払われている。内訳は「人件費」、給食費などの「事業費」、土地や建物の賃借料などの「管理費」の3項目で、国の「公定価格」に基づいた金額となる。
三浦氏によると、この委託費は2000年まで「人件費が全体の8割」と使途が定められていた。だが、同年に国が待機児童解消を名目に株式会社の保育参入を解禁し、委託費の「弾力的運用」を認めた。