「ヤクザ・チルドレン」を出版したノンフィクション作家の石井光太氏
「ヤクザ・チルドレン」を出版したノンフィクション作家の石井光太氏

 また、家族としての“カタチ”が希薄という特殊な事情もあります。そもそも籍を入れていない家庭が多い上に、「夫がころころ変わる」「引っ越しを頻繁に繰り返す」といった傾向があるので行政が追いきれません。ヤクザは警察の目から逃れるプロでもあるので、その家族も身を隠したり、捜査員をまいたりする方法を心得ている。つまり、ヤクザの家庭自体が存在を隠しながら生きているのです。それゆえ、一般家庭を対象とする従来型のセーフティーネットが機能しない。だからこそ、ヤクザの家庭に特化した介入の仕方を考えていくべきです。

――具体的に暴力団の家庭に特化した介入とは、どのような方法が考えられますか。

 暴力団の取り締まりにあたるマル暴(組織犯罪対策部など)が、ヤクザの家庭にも介入する必要があると思います。現状、マル暴の仕事はヤクザを捕まえることに終始して、妻や子どもはほったらかしです。ヤクザに介入できるのはマル暴しかいないわけですから、ヤクザを取り締まるのと同時に、マル暴から積極的に児相につなげるなど、子どもの保護に向けて家庭に介入していくべきです。

 マル暴はヤクザの交友関係など細かく情報を把握しており、もちろんその家庭状況も詳しく知っています。これらの情報を児相など他の機関に共有するべきです。現状、児相ではヤクザ関係者が子どもを引き取りに来ても、その人物がヤクザであることを証明できないために引き渡してしまうこともあります。児童養護施設から帰ったら、家に母親の愛人のヤクザが住んでいたなんてこともザラ。もしマル暴からの情報提供があれば、児相だってこの家庭には戻さないとか、重点的に見守りをしなければならないと考えられるはずです。

――暴力団の家庭なんて自分たちとは関係ない、という社会の意識も変える必要がありそうです。

 今は「親ガチャ」という言葉がはやっていますが、ヤクザ家庭を含め、そんな言葉でくくれるほど単純な問題ではありません。日本には暴力団の構成員、準構成員は合わせて2万5900人いるとされていますが、1人平均3人の子どもがいるとしても7万人以上になるのです。ガチャで外れだったから残念という話ではないでしょう。ヤクザを美談にするのではなく、その家庭で育ち、社会からも排除されている子どもたちに目を向け、手を差し伸べる術を考える必要があります。(構成/AERA dot.編集部・飯塚大和)

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