寺島しのぶさん(左)と井上荒野さん[寺島さんのヘアメイク:川村和枝、スタイリスト:中井綾子(crepe)]
寺島しのぶさん(左)と井上荒野さん[寺島さんのヘアメイク:川村和枝、スタイリスト:中井綾子(crepe)]

寺島:うちの父もけっこう破天荒だったんですよね。いろいろな女の人が部屋に来たり、京都で遊んで騒いで「クリスマスツリー持ってきちゃった!」って帰ってきたりしました。それでも「なんか、いいじゃん?」って思っちゃったんです。破天荒で女性にモテる父、かっこいいじゃん?って。私の感覚も普通じゃないかもしれない。

井上:みんなそれぞれ、いろいろありますよね。「鬼」も私はいろいろな意味でつけたんです。言葉から受ける恐ろしいものではなく、篤郎を鬼とするならば「鬼はいま、あっち(の家)にいる。私のところにはいない」という鬼ごっこのようなイメージもある。

寺島:荒野さんが書かれる話はどれもさらっと怖いんですよね。『だれかの木琴』も『その話は今日はやめておきましょう』も。恐ろしさや狂気の部分はDNAですか?

井上:どちらかというと父より母のDNAかも。

寺島:映画で篤郎が笙子さんのことを「この人に小説を書かせたらもっとすごいの、書きますよ」と言いますけど、実際にお父様とお母様はそうだったんですか?

井上:そう。本当に母が書いて父の名前で出した短編小説が三つ四つあるんです。私が小説を書き始めてから「実は私も書いていたのよ」と聞かされてすごくびっくりしました。しかも父の短編の中で、私が特に好きな作品だった。私の世の中の捉え方には母のDNAがあると思います。もちろん父の影響も大きい。うちは子どものころから「ちょっといい話」みたいなのを全く拒否する家だったのね。

寺島:ええ?

井上:例えば学校で「今日こういうことがあった」とちょっといい話を話すと父は「それ、どこがおもしろいの?」とか「そいつ絶対、嘘ついているぞ」とか言うんです。そうすると「そう言われればそうかも」とか「そしたらこれ、全然、真逆の話になるんじゃない?」とか考える癖がついちゃった。そういう性格の悪さ、みたいなところで自分は小説を作っているんじゃないかなと思います。

寺島:すごく腑に落ちました! でもうちの夫もですが、フランス人はみんなそうですよ。物事を一つじゃなくいろいろな角度から見ることが大事だと言っています。子どもにもそういう教育をしています。私、もともと物事を斜めに見るタイプだったんですけど、主人に出会ってからもっといやな感じになってきた気がします。

井上:あはは。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

週刊朝日  2022年11月18日号

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