石井良一球団本部長は「まったく球団側のミス。申し訳ないことをした」と平謝り。三ツ野充蔵球団代表も「関係者に連絡を徹底するように」と口頭で注意した。

 そんな紆余曲折を経て、交渉日の24日、部屋に入るなり、「この前は悪かったねえ」と丁重に迎えられた福浦は、1700万円から倍増の3400万円を提示される。「自分が想像していた以上の金額提示にビックリしてしまいました。だから、すぐにサインしました」と15分で更改。「クリスマスイブに(夫人に)いい報告ができます」とニコニコ顔で帰っていった。

 ちなみに同年は、ダイエー・秋山幸二も、球団がスパイ疑惑事件の対応に追われ、12月2日以降に予定されていた秋山を含む16選手の契約更改が延期になったことを知らされなかったため、12月4日、スーツ姿で福岡ドーム内の球団事務所を訪問。スパイ事件の取材で待機していた約30人の報道陣を「すわ、何事か!」と色めき立たせている。

 契約更改は、交渉の席はもとより、それ以前も含めて、さまざまなドラマがある。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

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