撮影:染谷學
撮影:染谷學

 染谷さんは埼玉県の蓮田で生まれ育った。

「なので、海がない。海への憧れ。そこに気持ちが引かれる、というのはありますね」

 これまでに訪れた海辺の町は西日本が多い。理由のひとつは東日本大震災という。

「岩手県にも好きな漁港があったんですけれど、震災で風景が一変してしまった。港がコンクリートで固められ、住宅も高台に移転してしまった。あと、工業地帯の神奈川県から名古屋までの間の風景も薄いですね。その時々で、思いついたところに行って、気に入った場所には2、3度行っています」

■3年間隔で個展を開く理由

 繰り返し訪れた場所のひとつが長崎県の島原半島。

「そこに行って写真が撮れたという、成功体験みたいなのがありますけど、あと、海岸線が面白いんですよ。入り組んでいて、ちょっと引っ込んだところに船だまりがあったり、家が並んでいたりする」

 しかし、単に風情があるだけでは写真にはならないし、撮れるかどうかは、実際に行ってみないと分からないという。

「これはほんと、行ってみないと分からなくて。なんとなく行ったら、写真が撮れたり。よさそうだな、と思って行っても撮れなかったりする。例えば、船宿で有名な京都府の伊根とかに行っても、コンテストの写真みたいになっちゃうんですよ」

 さらに、撮れたつもりが、ダメだった、ということもよくあるという。

「目的地でさんざん撮った写真が、家に帰って見たら、ねらいすぎていてダメで。ただ、道すがら1回だけシャッターを切ったものが残ったり、フィルムを入れ替えるために早く終わらせようと2、3枚撮った写真がよかったりする。まあ、そんな感じですね」

 そして「1回の旅で、いいな、という写真はせいぜい2枚かな」と、つぶやく。

撮影:染谷學
撮影:染谷學

 染谷さんは50歳になったら仕事として写真を撮ることをやめようと決めていた。

「それで、いまはお墓の掃除とかをしているんです。ずっと墓を撮ってきたので、何かするんだったら、墓守みたいな仕事がしたいな、と思っていた。その仕事が年に4回、1週間の休みがとれるんです。そうすると、1年で8枚、3年で24枚、写真が手元に残る。計画的に3年おきに作品を発表しているわけじゃなくて、展示できる枚数がたまるのに3年かかっちゃうんです」

アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】染谷學写真展「六の舟」
ギャラリー蒼穹舎 11月29日~12月12日
ギャラリーソラリス 2022年1月11日~1月23日

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