Mさん宅の玄関口。段差があるため手すりが役立つ
Mさん宅の玄関口。段差があるため手すりが役立つ

「一日に5~6回、上り下りをする14段の階段が、足腰を鍛えるリハビリになっています」

 こう話すのは、2階建ての店舗付き住宅で一人暮らしをしているMさん(88・高知県在住)。今も現役で日用品店を切り盛りするMさんは、少し耳が遠くなったり、背中の曲がりが気になったりするものの、身体は元気で毎朝の散歩を欠かさない。だが昨年、階段を上っているときに足を踏み外して腰から落下。幸いにも低めの位置からの落下だったため、大事には至らなかったが、腰と顎を打って2週間ほど入院することに。それまで生活に不自由を感じなかったため、介護保険を申請していなかったが、病院から勧められて申請することにした。

 その後、要介護度状態区分の7段階の中で最も軽い要支援1の判定を受け、家屋調査を経て、玄関とトイレに手すりを取り付けたほか、元から設置していた階段の手すりに滑り止めをつける改修を、介護保険を利用して行った。懸念の階段には、ホームセンターで購入したテープ式の滑り止めを、家族が1段ごとに貼り付けて設置。改修はその程度だが、Mさんは「全く不自由さを感じないし、これ以上の改修は必要ない」ときっぱり話す。

「本人の状態にもよりますが、バリアーを全てなくすことが必ずしもよいというわけではない。むしろバリアーがある程度、身体機能の維持やリハビリに役立っている場合もある」

 ケアマネジャー歴21 年の牧野雅美さん(アースサポート)はこう話す。住空間を大きく変えるリフォームは、現役世代の人にとっては「新しくなって気持ちがよい」という声が多いものの、高齢者にとっては「よいことばかりとは限らない」とも指摘する。

「高齢になると新しい空間に住むよりも、これまで暮らしてきた歴史の詰まった空間に愛着を感じる人も多い。昔と変わらない空間だからこそ落ち着けるという人も少なくありません」

 もっと身体の状態が深刻になった段階では、本人が寝る場所と、介助スタッフや家族が最低限動けるスペースがあれば十分になってくる。余命が限られた段階になればなおさら、本人が動けるスペースは限られてくる。『自宅で最期を迎える準備のすべて』の著書で知られる看護師の大軒愛美さんは言う。

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