高齢期の住まいづくりは、住みやすさに加えて安全面も考慮したい。在宅生活を快適かつ安心して過ごすために、リフォームが必要である場合もあれば、本人の身体の状態によっては、最小限で済むこともある。どんな視点が必要なのか。実例をもとに考えてみよう。
「急な身体の変化だったので、“その場しのぎ”的な対応が多いわが家ですが、特に不自由は感じていません」
こう話すのは、現在、在宅療養中の母(78)を介護しているAさん(50・東京都在住)。Aさんの母は、4年前にパーキンソン病を患い、要介護1の判定を受けた。そのとき、病気による転倒のリスクを考え、トイレ、廊下、玄関、階段に手すりをつける住宅改修工事を、介護保険制度を利用して行った。昨年、圧迫骨折を機に、複数の病院を転院。入院時は歩ける状態だったが、入院中にげっそりと痩せて筋肉が落ち、車椅子での退院となった母を家に迎え入れる準備期間は、わずか2週間。歩行困難となった母のため、2階にあった母の寝室を1階に移すことに決め、寝室にレンタルの電動ベッドを入れるために、1階にあった家具類や荷物を老父とともに2階に運び、何とかスペースを確保した。
その後、退院前の家屋調査を経て、追加でレンタルの手すりを廊下や居室の入り口など合計3カ所に設置。段差をフラットにする置き型のスロープも設置し、廊下にあった荷物も全て2階に上げ、母の動線に物を置かないように配慮し、退院した母を迎え入れた。
「歩いて入院した母が車椅子で退院となり、車椅子生活がどんなものかもわからないままに在宅に移る準備に追われました。住環境の変化といえば退院前にレンタルの手すりとスロープをつけた程度。ですが今のところはこれで問題なく暮らせているし、レンタルでまかなえているので、これから工事を伴うリフォームをすることはないと思います」(Aさん)
年を取っても身体に大きな不調をきたしておらず、自立した生活を送れている場合には、もっとミニマムなリフォームで十分快適に過ごせることもある。