噂によると、頭にハゲがあって、大イチョウで隠していたけど、あごを引くとそれが見えてしまうから、頑なにあごを引かなかったらしい。あくまでも噂話だからな(笑)! それに酒好きでハチャメチャ。酔って店の中のものをブッ壊したりとか、そういう逸話がいっぱいある。宮城野部屋を継げる実力のある御仁だったけど、そういう素行の悪さがひっかかって継げなかったんだと。陸奥嵐が宮城野部屋を継いでいたら、白鵬もいなかったかもね。「こんなの耐えられない!」って(笑)。陸奥嵐は誰に聞いても「破天荒だ」って言うよ。
その陸奥嵐が苦手としていたのが富士櫻だ。山梨出身で、小さくて、コロっとした体型だけど、こんなに相撲に熱心だった人はいない。相撲に一途っていう人。からだを大きくしようと、ちゃんこを食うときも一升瓶に水入れて流し込んで、足腰が立たなくなるくらい稽古して、あんなに真面目に相撲に取り込んでいたのを見たのは富士櫻くらいだ。彼の方が俺の2つ上で初土俵が1年ちょっと早かったかな。関脇まで行ったんだよね。
今、白鵬が引退して間垣になったけど、俺にとって、間垣といえば(2代目)若乃花だ。現役時代は気風がよくてカッコよくて、飲む、打つ、買う、全部好きだったからね。「俺は相撲でここまでのし上がった」というところを、ほかの力士のためにも見せたかったんじゃないかな。青森出身で、本当は大人しい人だけど、横綱まで行ったから見栄も張らなきゃいけない。照ノ富士が入門したのも最初は若乃花の間垣部屋だったもんね。
今、からだを壊して療養施設にいるらしいけども、照ノ富士が横綱になって、間垣部屋のことも話題になったりして、彼も嬉しいだろうね。弟子が横綱になって、大横綱の白鵬が間垣を継いで、人生はドラマだね。
そんな若乃花との一番の思い出は彼が十両に上がったときだ。そのとき、俺は巡業で行った先の青森県の大鰐温泉の旅館で、富士櫻と北瀬海と3人で、芸者をあげて飲んでいたんだよ。そうしたら、外が騒がしくなって、見たら若乃花が十両に上がったからって、地元をパレードしているんだ。気持ちよく飲んでいた俺たちは「なんだよ、たかだか下っ端が十両に上がったくらいでパレードなんかしやがって!」なんて悪態をついていたんだ。その悪態をついた舌の根も乾かないうち、1年くらいでみんな番付抜かれたからなぁ(笑)。本当に面目なかったよ。いやあ、他人の悪口は言うもんじゃないねって思ったけど、今でも懲りずに言ってしまう(笑)。