現役の力士は、若いやつとは大事に付き合った方がいいよ。いつ立場が逆転してどうなるかわからないからね。一方で、相撲は縦社会だから、番付が上になっても下の先輩のことは立てる。俺がいた頃はそういうのは残っていたが、今はどうだろう。大学出身者が増えて、相撲の気風も変わったよね。世間一般から見ればなじみやすくなったのかな。

 俺たちハチャメチャな、まるで藤山寛美さんの世界観のような、そんな勝負の世界だったから、今もそうであってほしいと思うこともある。今の力士たちを見ていると、スポーツマンで、えらいきれいで、自分の生活を設計して、金を無駄遣いしないっていうのが透けて見えるんだよ。

 相撲は勝てばいい、懸賞金もらって、番付上がって、三役に上がったらこうして……と着々とメイキングしていて、相撲の元来の良さがないように感じる。力の勝負だから、重い、大きい方が有利だって短絡的に思っている力士が多い。土俵が小さいから、体が大きい方が有利なのはしょうがないけど、もっと技があってもいい。決まり手もはたき込みが圧倒的に多いだろう。それに、最近は手刀も勝手にやって、懸賞金を持って帰るっていうのが増えてるね。そういう所作や挨拶もちゃんとしてほしい……って、自分でも言ってることがジジ臭いな。って、ジジイだからいいか(笑)。

 そうそう、相撲つながりで最後に心残りがある。相撲を廃業する直前まで俺が呉服屋に仕立てを頼んでいた着物がけっこうあったんだけど、引っ越しとプロレス転向やアメリカ修行のドタバタで、しばらく呉服屋に連絡が取れなくなっていたんだ。そうしたらその呉服屋、俺の着物を本来俺が行くはずだった押尾川部屋の若い衆に「これ、天龍さんの着物だからあげる」ってあげちゃったんだ! 

 大島紬や結城紬、小紋なんかのいい着物もあったのに、全部配っちゃって、いい加減なことをしてくれたよ、まったく! それなりに地位が上の力士は着物のよしあしがわかるけど、若い衆がもらってもそのよさはわからなかっただろうなぁ。今ごろきっとボロ雑巾だ……。もし、今でもその着物を持っているという人がいたら、俺が買い取るから連絡くれ!

(構成・高橋ダイスケ)

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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