2022年北京五輪男子フリー
2022年北京五輪男子フリー

 フィギュアスケート男子で66年ぶりの連覇という、歴史的偉業だ。それを目の当たりにしながらも、私は自分が冷静だったことを覚えている。こんなときこそ強い男だとわかっていたし、連覇するだろうと思って準備してきた。

 フリーの直後の会見で、羽生はこんなことを言った。

「自分の強みというのは、いろんなことを考えて分析して、氷上に出すから爆発力があると思っているので、ある意味、けがをしてよかったとは絶対思っていないですけど、けがをしたからこそできたことだと思っています」

 何かを乗り越えることを楽しんでいるのだ。

 五輪のリンクに立ったときの心境についても語った。

「けがをして、スケートができなくなるんじゃないかと思ったので、スケートができてよかったのが一番かな」

 スケートができる喜びが、支えになっていた。フィギュアスケートという競技と、フィギュアスケートをすることにより得られる周囲からのパワーが、羽生は本当に好きなのだ。

 喜びと、そこから得られる自信は、子どもの頃に覚えた。それが力の源なのだと強く感じたことは何度もある。その一つは、17年夏に聞いた次の言葉だ。

「僕、ほめられたくてやっていました。ほめられるの大好きだし、今でもそうですけど、ほめられて伸びるタイプと思っていました」

 北京五輪を終え、プロ転向を表明してしばらくした今年9月2日、私は仙台市内で羽生にインタビューする、本当に貴重な機会をもらうことができた。

 これまでも何度も聞いてきたことだが、改めてもう一度確かめたかったことをこの機会にぶつけた。

“そんなに頑張り続けることができる、原動力は何ですか”

 羽生は子どもの頃を思い出しながら、語った。

「うまくなることとか、強くなれたりとか、何かしらを達成できたりとか、そういう体験がものすごく好きなんですよね。それを体験してきたことは大きいと思います。それに対して、みなさんほめてくれたりとか、評価してくれたりとか、みんな幸せそうにしていたりとか、喜んでくれたりとかがうれしいんですよね。自分だけがうれしいなら、たぶんここまでやれていないですし、今もやっていなかったと思います。それが、原動力というものになるのかな」

 そして、インタビュー終盤に、今になって抱くようになったこんな心境を語った。

「北京オリンピックで終わったあとに、『報われなかった』と言っていたじゃないですか。でも、今は『報われた』と思っているんですよ」

「それは、みなさんが自分の演技にいろんな価値を見いだしてくれ、評価してくれたから。あの演技、見ることができてよかったと言ってくださる人がたくさんいらっしゃったので。みなさん幸せな気持ちになってくれているんだったら、僕も幸せだなと思えます」

(朝日新聞スポーツ部・後藤太輔)

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