最近の事例から、司書の技を説明していこう。

 ある日、本を探しているが、タイトルも著者も思い出せないという問い合わせがあった。その利用者の本の説明はこうだ。

覚え間違いの事例の一部
覚え間違いの事例の一部

「数年前に読んだ本で、昔何かの小説の賞をとったはずです。フランスが舞台で、貧しい主人公の少年が貴族の少年に気に入られ、同じ学校で学ぶ話。タイトルは思い出せませんが、表紙には2人の顔が載っていたと思います」

 井藤さんによると、こうした問い合わせでは、図書館内の蔵書検索システムの他にGoogle検索を利用することも多いという。

「Google検索だと誤った語句で検索しても正しい言葉を予測してくれるので助かることも多いです。しかし、今回の事例ではいくつかキーワードを組み合わせて検索してみましたが、それらしい本は見つけられませんでした」

 そこで、利用者にタイトル以外で覚えていることを質問してみた。利用者に質問を重ねて手掛かりとなる情報を引き出すことが、レファレンスでは重要だ。

 質問するときのコツを井藤さんに聞いた。

「利用者から伝えられたタイトルで本がヒットしない場合『どこで目にした本か』というのはよく使う聞き方です。うちの図書館で借りたことがある、ということであれば必ず図書館内の検索システムでヒットするはずなので、確実に利用者の方の覚え違いだとわかります。あとは、テレビやラジオで聞いたという場合も、覚えているタイトルが間違っている可能性が高いです。そうした場合は『どういうことで話題だったのか』や『書いた人についてわかることはないですか』などの周辺情報を細かくたずねていくようにしています」

 なんだか、刑事や探偵の聞き込みに似ている。今回の事例では「作品の舞台になっている時代」「主人公が通う学校名」「登場人物の名前」などを質問していた。学校名などの固有名詞が出てくれば、Google検索でもヒットしやすくなるという。

 中には2時間ほどかかって探すこともあるというが、おおむね30分以内に探している本を見つけられることが多いという。

 こうして得られた断片的な情報は、どうやって本のタイトルに結びつくのか。

「司書ならではのツールもあります。たとえば、登場人物の名前が分かれば、物語の登場人物名から引ける事典があるんです。あまり一般的ではないかもしれませんが、図書館には本を探すのに役立つ辞書や事典がたくさんあるんですよ」

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結局、本は見つかったのか?