そんな具合に本に囲まれる生活が、自分にとって心地よかったのです。たぶん5、6歳で本を手にするようになって、86歳になるまでの80年間、本は私にとって、かけがえのないパートナーでした。ところが、最近、それが変わってきてしまったのです。
ホテルグランドパレスがなくなって、神田神保町に足を運ぶことがなくなりました。あれだけ好きだった東京堂書店には、まるで行かなくなりました。でもそれが気にならないのです。
自分でも不思議なのですが、本を読みたいと思わなくなってしまったのです。まず、小説をまったく読まなくなりました。少しもおもしろくないのです。そのほかの本も、原稿を書くのに必要な時以外は手にしません。
そうなった理由のひとつに老眼の進行があるかもしれません。今の老眼鏡では文字が読みづらくなってしまったのです。そこで、近く老眼鏡を新しくします。しかし、これで本がまた好きになるかというと、あまり期待していません。
最近、あの世への興味が高まって、この世に対する興味が減ってきているのです。それが、本に関心がなくなってきた一番の理由ではないかと思っています。あの世でのベストセラーでも手に入ればいいのですが(笑)。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年10月28日号