大みそかの風物詩「紅白歌合戦」。「国民的番組」を背負う苦悩や責任感について、制作統括を務めたNHKの加藤英明チーフプロデューサーが語った。AERA 2023年1月30日号の記事を紹介する。
【写真】加藤さんが使っていた昨年末の「NHK紅白歌合戦」の台本はこちら
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──昭和、平成、そして令和と時代を映してきた「紅白歌合戦」。視聴率81.4%を記録したこともあり、国民的番組として愛されてきた。だが、配信サービスが浸透し、業界全体で視聴者離れが加速。紅白も例外ではない。
「次に下がったらもう終わるかもしれない」という危機感はすごくありました。前回の第72回の世帯視聴率が前年より6ポイント下がり、今回も同じように数字が下がれば20%台が見えてくる。番組自体は終わらないにしても、30%を割り込むとなれば、国民的歌番組と呼ばれるコンテンツとして相応しくないと評価されてもおかしくありません。
NHKのコンテンツといえば半年続く朝ドラか、1年続く大河か、4時間半の紅白を挙げていただくことが多いのですが、あの4時間半の一秒一秒をどう作り込むかが僕らにとっての大勝負。数字のプレッシャーはめちゃくちゃあります。
──ふたを開けると、今回は21時から23時45分までの第2部の平均世帯視聴率が35・3%と、前回より1ポイント上がった。
僕の紅白が終わる瞬間って、1月2日の午前11時なんです。ちょうど視聴率が発表されるタイミングで、1月1日には家に帰るものの、気になって寝られない。2日にもう一度会社に来て、数字を告げられるのを部長席の前でじっと待つんです。
本音を言うと、数字は下がるかもしれないとも思っていました。テレビそのものの視聴者数が減るなかで、どれだけ頑張っても視聴率を上げるなんて無理だと思っていたタイミングもあったりして。民放各局も相当苦労していましたし、わかりやすく数字という結果を出す難しさもわかっています。
──紅白をめぐっては、毎年様々な批評が繰り広げられる。そうした声は冷静に受け止めている。
昨年末で73回目を数えた、ある意味でオーセンティックな歌番組です。いつまで続けるんだという批判はいつもあったと思います。僕はNHKに入って25年目ですが、「紅白はオワコン」「時代に合っていない」というのはずっと言われ続けているんじゃないでしょうか。
いつも10月くらいから、紅白に対する記事が出始めます。出演アーティストや司会の予測から、「見るのか見ないのか」といったことまで、いろんなことを毎日言われる。でも、僕は話題になってなんぼだと思っているので、ありがたいことだと思っています。もちろん、時折傷つくこともありますけどね。