東尾修
東尾修
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 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、ヤクルト村上宗隆選手に期待を抱く。

【写真】55号となる本塁打を放った村上宗隆

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 9月に入って各チームの残り試合は20試合を切った。本来なら優勝争いで盛り上がってくるところだが、ヤクルトの村上宗隆一色になっている。村上は13日の巨人戦(神宮)で2本塁打を放って、王貞治さん(巨人)が1964年に記録した日本選手最多の55号に並んだ。まだ11試合も残っている。最後まで自分のスタイルを崩さず、ぜひ2013年のバレンティン(ヤクルト)の60本塁打も超えていってもらいたい。

 前回のコラムで、投手はもっと勝負をしてもらいたいという趣旨の話をした。逃げ続けては、投手全体の発展はない、名勝負は生まれないと。

 巨人はエースの菅野智之、そして守護神の大勢というチームの中で現状考えうる最高の投手が、納得いく球を投げて打たれた。その姿勢には拍手を送りたい。もちろん点差も開き、一発を打たれてもリードを保てるという状況。しかもCSに進出した場合、必ず当たる相手と考えれば、ある程度納得の攻めだったように思う。

 しかし、打者として一番対応が難しいはずの内角高めを打ちぬいて右翼へ運んだ54号、そして一番体から遠い外角低めを左翼へ運んだ55号。球種が豊富で、細かい変化のボールも増えた現代の野球で、こういう打撃をできなければ本塁打は量産できない。プルヒッター(引っ張る打撃)では、ここまでの数字は残せなくなっている。

 8月30日の巨人対ヤクルト戦でインハイで捕邪飛に打ち取られた菅野と、2週間ぶりの対戦で今度はその球を完璧に右翼席に運んだ。一度見た球はもう通用しない。そう巨人バッテリーはインプットしたことだろう。

 データ分析が格段に進む今のプロ野球において、データのいたちごっこをしては圧倒的な数字を残せない。村上は内角高めから外角低めまで、自分のスイングをすれば、フェンスを越えていく。そんなスイングをたったのプロ5年間、22歳で作り上げたことに驚く。

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