私を優先し、自由を大切にする現代の若者の生き方が、女王の時代の考え方とどうしても一致しない。両者にとって不幸な結婚だった。そしてダイアナ元妃の悲劇的事故死! エリザベス女王は苦境に立たされた。
皮肉なことにこの悲劇が逆に王室への関心を高め、女王が雲の上の存在ではなく、われわれの俗な世界にも通じあう、近しい存在と感じさせる契機だったことは否めない。
それにしても生前のエリザベス女王の日頃の衣裳からしてそうだったが、国葬も、そのむしろ時代遅れの豪華さの中にイギリスの伝統を見る。
各地に貴族が存在し、執事のいる国。そのありようは、老執事の目を通して、第二次大戦後の貴族階級の落日を描いた、ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロによる『日の名残り』などの作品にも詳しい。
女王の国葬は、一つの時代の終焉を意味する。当日は午後七時から、NHK BS1で、その時代の終わりをじっくりと拝見した。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年10月7日号