※写真はイメージです (GettyImages)
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 インターネットからデジタルの音楽があふれる時代に、アナログ音源のラジオで音楽を聴くのは得難い魅力がある。未知の曲と出会え、音だけの世界で想像力も豊かに働く。

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「一人で長時間、作業をすることの多い仕事なので、音のない部屋にいると孤独になるのですが、ラジオをつけていると孤独感がなく、安心できます」

 都内の自宅や仕事場のスタジオは、どの部屋にもラジオがあるという写真家(日本写真家協会企画委員)の川村容一さん。自宅で仕事をするときは午前9時ごろから午後8時ごろまで「ラジオはつけっぱなし」と話す。

 ラジオの音楽との出会いが、川村さんの人生を決めた。小学校高学年からラジオで音楽を聴き、情報を得て、勉強のかたわらも聴いていたという。

 1970年代後半の高校時代、太田裕美さんのデビュー曲「雨だれ」をラジオで聴いてとりつかれた。カメラと望遠レンズを持って、ラジオ番組の公開生放送の現場に通うようになった。いわゆる「カメラ小僧」で、太田さんや山口百恵さん、キャンディーズの写真を撮った。当時は芸能人の写真を撮っても、うるさく注意される時代ではなかった。

 川村さんは大学で経済を学んだ。金融機関への就職も考えたが、夜間の写真学校へ通い、写真家の道を選んだ。「仕事も趣味もラジオとの出会いが私の人生を決めた」と話す。

 クラシック音楽のラジオ番組を制作するラジオディレクターの清水葉子さんは、早朝の番組を担当したことがある。さまざまなリスナーがいたという。子どもの弁当づくりをする主婦や、タクシーの運転手など。意外だったのは入院患者のリスナーで「朝が早く、病院のベッドで聴いていた」と話す。

 クラシック音楽のリスナーは高齢男性が多く、清水さんは「男性の好む音楽は大編成のオーケストラが多い」と言う。一方、早朝のリスナーには病院の患者もいると念頭に置いた。そこで、「室内楽や静かなピアノ曲、フルートなど木管のアンサンブルを中心とした曲を流していた」と振り返る。

 早朝のラジオ番組は一日の始まり。清水さんは「きょう、どんなことが起こるのか」を予感させる工夫をして、明るい感じの曲を選んでいたという。

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