
「時計遺伝子」の異常
「より高温な条件のほうがメラノサイトを刺激して、シミやくすみの原因となるメラニンを過剰に産生(さんせい)することがわかりました。その理由は、暑さが時計遺伝子のリズムを狂わせるためです」
こう話すのは同社の研究員、中山和紀さんだ。
時計遺伝子とは、時差ボケや肥満などにも影響を与えるとされている、いわば体のコントローラー。暑くなると、時計遺伝子の一つ「DEC1」が何らかの理由で異常をきたし、メラニンの過剰な産生を抑制できなくなると考えられている。
つまり、夜なのに暑い環境にいたら、時計遺伝子が日中だと勘違いしてしまう、ということだ。そして、時計遺伝子が日差しに対抗しようと、日中のスイッチがオンのままになり、体内でメラニンをたくさん作らせてしまう。
もっとも、シミができるまでには長い年月を要するため、メラニンを過剰に作るからといって、それが必ずシミになるかどうかまではわかっていない。だが、暑いと肌がくすみやすくなり、日焼けしやすくなることは実証された。
ここで素朴な疑問がわく。
コロナ禍でおうち時間が増えた分、おのずと暑さを避けられているはずなのに、肌がくすむのはなぜか──。その問いに答える研究成果を22年、ポーラ化成工業は発表した。
“温度差”で肌がくすむ
「この最新の研究では、秋冬ほどの日中の気温差がなくとも、夏場に冷房の利いた室内、暑い屋外を行き来するだけで、メラノサイトを活性化させる刺激因子であるKITLG遺伝子の発現が増えることが実証されました」(中山さん)
つまり、“温度差”にさらされると肌は日焼けしやすく、くすみやすくなることがわかったのだ。
研究では、37度の一定温度に肌の細胞がさらされるときと、37度→28度→37度と温度変化をしたときで比べた。すると、温度差があるときのほうがメラノサイトを刺激する遺伝子の発現量が2倍に増えた。