台湾情勢に詳しい東大東洋文化研究所の松田康博教授は「中国軍にはまだ米軍を圧倒する力がなく、武力統一の考えはない。活発な軍事活動は台湾独立派を脅す手段に過ぎない」と語る。
中国軍の戦力は台湾軍を圧倒している。ただ、台湾海峡は幅130~150キロしかない。台湾軍が保有するハープーン対艦ミサイルで十分カバーできる範囲だ。台湾有事になれば米軍だけではなく、中国軍艦艇も台湾海峡に展開することは容易ではない。
ただ、松田教授は「米台の挑発が限度を超えたと認識したら、限定的な武力行使や威嚇はいつでも起こりうる」とも指摘する。中国の魏鳳和国防相は6月12日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で演説し、「大胆にも台湾を(中国から)分裂させるなら、必ずや一戦をいとわず、代償を惜しまず徹底的に戦う」と警告している。
防衛は公式見解ではない
「あいまい戦略」の背景
これに対し、米国はどのように対応するのだろうか。米国は従来、中国が台湾に侵攻した際、米国が台湾を防衛する意思があるかどうかを明らかにしない「あいまい戦略」を取ってきた。
バイデン大統領は5月23日、岸田文雄首相との共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した際に米国が台湾防衛に軍事的に関与するかと問われ、「イエス。それが我々の誓約(コミットメント)だ」と答えた。バイデン氏が大統領就任後、台湾防衛の意思を示したのは3度目だが、ホワイトハウスや国務省は、バイデン氏の発言について米国の公式見解ではないと否定した。
日米関係筋によれば、米国内には台湾防衛について「あいまいなままにしておくべきだ」という意見と「防衛の意思を明確にすべきだ」という意見の対立が続いている。
トランプ政権の2018年2月、米国家安全保障会議(NSC)は「インド太平洋戦略枠組み」を作成し、台湾を防衛する方針を明記した。この文書は21年1月に秘密指定が解除された。日米関係筋の一人によれば、同月に発足したバイデン政権に対し、トランプ政権の強硬な対中政策を引き継がせるためあえて公開に踏み切ったという。