ナンシー・ペロシ米下院議長は8月2日深夜、台湾を訪問。翌3日、台湾の立法院(議会)で演説し、蔡英文総統と会談した(写真:アフロ)
ナンシー・ペロシ米下院議長は8月2日深夜、台湾を訪問。翌3日、台湾の立法院(議会)で演説し、蔡英文総統と会談した(写真:アフロ)

 8月4日、中国軍が軍事演習で発射した弾道ミサイル5発が、日本の排他的経済水域に落下した。台湾有事は起こるのか。米中関係はどうなるのか。AERA 2022年9月5日号の記事から。

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 中国軍は8月4日から10日まで台湾を取り囲む形で軍事演習を行った。ナンシー・ペロシ米下院議長が2日から3日にかけ、訪台したことに反発した。発射した弾道ミサイル5発は、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。

 中国軍は、台湾周辺に設置した6カ所の訓練区域で演習を行うと発表。今回の演習で「鎖台(スオタイ)」という言葉を繰り返した。台湾を封鎖するという意味だ。台湾当局によれば、中国は弾道ミサイル11発を発射した。中国軍が弾道ミサイル使用に踏み切れば、米海軍艦艇は台湾に容易に近づけない。

 日本台湾交流協会台北事務所(大使館に相当)主任を務めた尾形誠元空将補は台湾有事について、「平時」から、サイバー攻撃や世論戦などを行う「グレーゾーン事態」、「封鎖」、離島の占領や限定的な航空攻撃による「限定侵攻」を経て、最終的に「武力による全面侵攻」に発展すると予測する。中国側は演習を繰り返し、「封鎖」の常態化を目指すことを示唆している。今回の演習を契機に、台湾を巡る情勢は「グレーゾーン」から「封鎖」の状態へと、半歩進んだ格好になった。

台湾独立派への示威行動、
米国との緊張は高めず

 一方、中国軍が今回の演習で自らの手の内を全て明かしたわけではない。

 中国空軍のJ11、スホイ30の両戦闘機が中国と台湾の間の中間線を越えて、台湾側への侵入を繰り返した。KJ500早期警戒管制機やH6爆撃機、Y20空中給油機などと組み合わせた攻撃編隊の飛行は見送った。航空自衛隊関係者は「戦闘機だけでは単なる示威行動に過ぎず、本当の戦闘を意識した動きとは言えない」と語る。空母「遼寧」や「山東」、最新型の075型強襲揚陸艦なども姿を見せなかった。

 台湾東岸から離れたフィリピン海には米原子力空母「ロナルド・レーガン」などが展開し、米軍のRC135Sコブラボール電子偵察機やP8A哨戒偵察機などが飛行していた。中国としては、米国との緊張を過度に高めず、自らの詳細な戦術も明らかにしなかった。

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