トランプ政権時代に駐韓大使を務めたハリス元米インド太平洋軍司令官も現役時代、台湾防衛の意思を明確にするよう、米政府に働きかけていたと朝日新聞に明らかにしている。

 なぜ、米政府は「あいまい戦略」を堅持するのか。1978年の米中共同声明は「中国はひとつで、台湾は中国の一部であるという中国の立場」を「米国は認識する」としている。「あいまい戦略」の否定は、この立場を否定することにもなりかねないうえ、中国の猛烈な反発を招く。米国にはまだ、中国との極度の緊張状態に立ち向かう準備ができていないとも言える。

 それでも、米国内に「台湾を防衛しない」と明言する当局者はいない。米軍はNSCの「インド太平洋戦略枠組み」に従い、台湾有事に向けた準備を始めている。

 バイデン米政権は太平洋抑止構想(PDI)を掲げ、22年度に関連予算71億ドル(約9800億円)、23年度予算案でも61億ドル(約8300億円)を計上した。防衛省防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長は「グアムなどの司令部や補給機能の強化、インド太平洋地域の訓練場の充実などが盛り込まれた。東アジア戦略を実行する足腰を鍛える狙いだろう」と語る。

(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)

AERA 2022年9月5日号より抜粋

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