推薦候補の多くが勝利
トランプ氏訴追の外堀が埋まり始めている一方、「トランプ共和党」の勢いは止まらない。中間選挙に向けてトランプ氏が推薦した候補者は、多くがこれまでの予備選挙で勝利している。彼の推薦や支援を得ることが選挙で勝てる「お墨付き」となるので、候補者の「マール・ア・ラーゴ詣で」が増えるわけだ。
同時に、トランプ氏自身も訴追がなければ、24年大統領選に立候補する計画だと米メディアは報じている。勝利には各州知事や議員の支持が必要で、中間選挙で候補者を推薦・支援するのはそのための地ならしだ。
FBIの捜索直後は、トランプ支持者らが「トランプ2024」の旗を掲げて邸宅を囲んだ。
くしくも今年6月17日は、リチャード・ニクソン元大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件の発生から50年。当時、孤軍奮闘で事件の報道を続けたワシントン・ポストが開いた記念イベントには、担当記者コンビとして有名になったカール・バーンスタイン氏とボブ・ウッドワード氏が登壇した。
イベントではバーンスタイン氏が議会襲撃事件にふれ、「今も(ウォーターゲート事件当時と)同様の状況にある」と語った。
大統領も裁かれるべき
ウッドワード氏も、暴徒が20年大統領選挙の当選者であるバイデン氏の承認手続きを議会が行っていた1月6日を狙ったことを踏まえ、「悪魔的に天才であるトランプ氏とその仲間は(民主主義)制度の弱点を見つけた」と指摘し、「政府の正当な機能を覆すことは犯罪だ」と語った。
マール・ア・ラーゴは、今年7月に銃撃された安倍晋三元首相がトランプ氏とゴルフを楽しんだ場所の近くにある。その銃撃事件をきっかけに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と国会議員の関係が次々と明らかになり、日本を騒がせている。しかし、元首相が銃撃されたにもかかわらず、自民党も国会も特別調査委員会を設置して事件の背景を徹底究明しようという姿勢を示していない。
米国の1.6委員会やFBIなどの捜査機関を突き動かしているのは、「大統領であっても、違法行為をした場合、裁かれるべきだ」という正義を全うしようという精神だ。ウォーターゲート事件当時も、ワシントン・ポストだけでなく、超党派の上院特別調査委員会がニクソン氏を辞任に追い込むのに重要な役割を果たした。
トランプ氏が訴追され、「第2のウォーターゲート事件」となる可能性は米国にはまだ残されている。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2022年9月5日号