延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「作曲家・いずみたくさん」について。

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 大学時代、演劇を齧(かじ)ったことがある。付属の女子高の面々が作ったサークルで、「延江くんは音楽に詳しいから音楽監督やってよ」と頼まれたのに、第1回公演は主役をやらされ冷や汗をかいた(その経験がラジオドラマに役立ったとはとても思えない)。

 飯倉にあったアトリエフォンテーヌは地下の劇場。演者として恥をかいた場所なので覚えている。作曲家いずみたくが作った小劇場だと知ったのはずいぶんあとになってからだ。「フォンテーヌ」はフランス語で「泉」。「“いずみ”たく」からなのかと納得した。

 いずみたくは日本にミュージカルを定着させるために劇場を作り、こけら落としは東京キッドブラザース「ザ・シティー」。名劇場をよく学生風情が使えたものだ(サークルのメンバーの親が音楽関係者だったからなのかもしれない)。

 ラジオ局で働いてきたから時代の肌触りは楽曲でわかる。サブスクリプションの今、PCで新旧の区別なく聴けるようになった。聴き比べる中で浮かび上がってくるのは時代に愛され、生活に寄り添ってきた作品。そのど真ん中にいずみが作ったメロディがある。

 この春、「いずみたくソングブック─見上げてごらん夜の星を─」がリリースされた。

 没後30年を機に発表された作品集の表紙ではタートルネックのいずみが首を傾(かし)げて客席にひとり座っている。頭に浮かんだメロディを追っているのか、今にもそのメロディが聞こえてきそうだ。収録作品は131曲。「手のひらを太陽に」「見上げてごらん夜の星を」「夜明けのスキャット」「ゲゲゲの鬼太郎」「もーれつア太郎」「いい湯だな」「明治マーブルチョコレート」……。

 平仮名の「いずみたく」が子供心に気になっていた。「いずみたく」とはヒットの記号なのかとさえ思っていた。

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