本名「今泉隆雄」。文章を書くのが苦手な彼が「いずみサン。あなたのやってきたことをそのまま書けばいんですよ」と編集者の「ニヤニヤ笑い」に悪ノリ(?)して自叙伝「ドレミファ交遊録」を『週刊朝日』で連載を始めたのが昭和40年代(イラストは和田誠!)。それが基になった『新ドレミファ交遊録』(サイマル出版会)を見つけた。
戦後のラジオ・テレビ黎明(れいめい)期から活躍した三木鶏郎(とりろう)の音楽事務所「冗談工房」から独立すると、ミュージカルから歌謡曲、童謡まで、彼の作品が電波に乗らない日はないほどのメロディメーカーとなった。生涯の友、前田武彦とジャズを語りあった青春時代。生活費のためにタクシー運転手になったことも。彼にはいつも仲間がいた。野坂昭如とCMソングを作り、永六輔はこう励ましてくれた。「タクちゃん、とにかくボクたちの考えているミュージカルを作ろう。他には絶対ないやつを!」
「疲れるとアパートの窓から夜空を見上げて、やがて何千人、何万人が口ずさむことを夢見ながら、『見上げてごらん 夜の星を/小さな星の 小さな光が/ささやかな幸せをうたってる』(永六輔)。たった一人で隣近所に遠慮をしながら口ずさむボクだった」(『新ドレミファ交遊録』)
自叙伝のページをめくりながらいずみのメロディを聴くとスライドショーのようにパタパタと昭和の風景が蘇(よみがえ)った。(次号に続く)
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年9月2日号