長崎で立ち会った谷口さんの精霊流し/映画「長崎の郵便配達」はシネスイッチ銀座ほか全国公開中(c)The Postman from Nagasaki Film Partners(c)坂本肖美
長崎で立ち会った谷口さんの精霊流し/映画「長崎の郵便配達」はシネスイッチ銀座ほか全国公開中(c)The Postman from Nagasaki Film Partners(c)坂本肖美
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 エリザベス英女王の妹、マーガレット王女とのロマンスで知られる英空軍のピーター・タウンゼント大佐。作家に転じたのち、長崎で郵便配達中に被爆した日本人と会い、一冊の本にまとめた。娘のイザベルさんが父の記憶と友情をたどるドキュメンタリー映画「長崎の郵便配達」。

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 ピーター・タウンゼント大佐は、英空軍パイロットとして第2次世界大戦で活躍し、「空の英雄」とたたえられた。それよりも大佐を有名にしたのは、マーガレット王女との悲恋だろう。

 戦後、当時の国王ジョージ6世から侍従武官として迎えられた大佐は、16歳年下の王女と恋仲になる。2人は結婚を誓うが、離婚歴がある彼との結婚は周囲に猛反対される。離婚相手が亡くなるまで再婚してはいけないとの掟があったからだ。

 先代国王のエドワード8世がシンプソン夫人との結婚を優先させて退位した記憶が残るなか、政府も大佐と結婚するなら王位継承権や年金などをすべて剥奪すると強硬姿勢を崩さなかった。万策尽きた王女は結婚をあきらめ、大佐はベルギーの英国大使館に左遷された。

 王女はその後、写真家のスノードン伯爵と結婚したものの離婚。男性関係や飲酒など生活が乱れた。映画「ローマの休日」のモデルとうたわれた王女は2002年、母や姉より先に亡くなった。

 大佐の消息は途切れたままだったが、作家として蘇ることとなる。長崎で谷口稜曄(すみてる)さんと出会い、『ナガサキの郵便配達』(1984年)という作品に結実させたのだ。

 大佐はベルギー人女性と再婚し、3人の子どもをもうけた。世界を回るジャーナリストとなり、戦争被害を受けた子どもたちに心を寄せるようになったという。彼が取材を重ねた谷口さんは16歳の8月、郵便配達の途中で被爆。背中に大やけどを負った。生死の境をさまようが生還し、約3年半の入院生活を経て仕事に復帰。生涯をかけて核廃絶を世界に訴えてきた。

 映画で大佐の足跡をたどるのは長女のイザベルさん(61)。川瀬美香監督から連絡を受け、すぐに意気投合したという。イザベルさんが訪ねた長崎では、2017年に亡くなった谷口さんの精霊流しに加わり、父と谷口さんの通訳にも会って、2人の友情を実感した。

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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