父の足跡を追うイザベルさん。ラルフローレンのモデルとしても活躍した/映画「長崎の郵便配達」はシネスイッチ銀座ほか全国公開中(c)The Postman from Nagasaki Film Partners(c)坂本肖美
父の足跡を追うイザベルさん。ラルフローレンのモデルとしても活躍した/映画「長崎の郵便配達」はシネスイッチ銀座ほか全国公開中(c)The Postman from Nagasaki Film Partners(c)坂本肖美

■父が残した取材テープに導かれ

 そんなイザベルさんに映画化への思いを聞いた。

──長崎の印象はいかがでしたか。

「父の仕事について、私はほとんど知りませんでした。たまたま父の書斎で見つけた10本の取材テープは、9本が英語で1本が仏語でした。仏語の中に『私は戦争で人を殺した』という父の告白がありました。胸を突かれましたね。長崎ではその取材テープに導かれて歩きました。父が身近に感じられ、まるで父を再発見したような気持ちになることができました。人生では信じられないことが起きるものですね。1995年に父は亡くなりましたが、その後長い年月を経た今、父の仕事について理解を深める機会に恵まれ、これほど幸せなことはありません」

──谷口さんについては、どう思われますか。

「父が谷口さんを尊敬していたように、私もとても尊敬しています。意志が強く、忍耐力があり、決してあきらめない方です。長く続く苦痛に負けず、自分のことを戦争の犠牲者としてただ悲しんだり嘆いたりするのではなく、それを核兵器廃絶と平和の大切さを訴える力に変えていった。10年にはニューヨークの『核不拡散条約再検討会議』で演説され、感動を呼びました。谷口さんは亡くなりましたが、本当にお会いしたかった。でも、長崎でご遺族とお話ができました。谷口さんと父との絆は固く、強い友情で結ばれていて、父が亡くなる年まで文通が続いたそうです」

──尋ねにくい質問ですが、お父さんはマーガレット王女と結婚を誓い合う仲でした。

「父と王女との恋愛は私の生まれるずっと前のお話で、わが家で話題になったことはありません。両親の間には『あれは過去のことにしよう』という暗黙の了解があったようで、強い意志で貫かれました。妹と弟は父の死後にそのことを知ったくらいで、『パズルが解けた』と言っていました」

「ただ私はフランスの学校に通学していたとき、門のところに記者やカメラマンが私を待ち伏せていることが何回かありました。これを知った父は、マスコミ各社に丁寧な手紙を送りました。英国での人生のチャプター(章)は終了し、ページをめくりました、新しいチャプターが始まっているので、そっとしておいてほしいという、礼儀正しい文面でした。手紙の印象がよほど良かったのでしょう、その後は追い回されることはありませんでした。父は英王室をリスペクトしていましたが、それとは別に私たち家族を守りぬいてくれました」

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