「過去の失敗の経験を次に生かすのは、リーダーとして重要な資質です」(小和田氏)
河合氏は、秀吉は能力が高いだけでなく、「目配りできる点」も学べるところがあるという。
「秀吉は『人たらし』といわれるように人心掌握に長けています。例えば直江兼続は、秀吉が伏見城の築城現場に自ら赴き、作業員一人一人に声をかけていたという手紙を書いており、彼の人使いのうまさがわかります」
秀吉は現代でいえば、子会社社員から大企業の社長までのぼり詰めた苦労人といえるだろう。
そして、家康。三英傑の中で派手さには欠けるものの、天下を統一し、約260年にわたる江戸幕府の礎を築き、「理想の上司」として高い人気を誇る。
■決めた方針は翻さない
そんな家康について小和田氏は、「根回し上手だった」と言う。
それが顕著に表れたのが関ケ原の戦いだ。家康の東軍7万に対し、石田三成の西軍8万。家康が押され気味だった時、松尾山にいた小早川秀秋が率いる1万5千の軍が突然、家康に寝返った。形勢は一気に逆転し、家康の勝利に終わった。
「家康は、小早川秀秋が寝返るという確信を持っていました。家康は全国の武将を味方に引き入れるべく、西軍の大名らに『自分に味方してくれたら領地を保証する』という手紙を160通近く書いて、周到な根回しをしていたのです」(小和田氏)
河合氏は、家康は「ぶれない点」が優れていると話す。
「家康は一旦決めた方針は絶対に翻さず、自分を裏切ったものは許しません」
例えば、一向宗の門徒が起こした三河一向一揆(1563~64年)では信仰を選び自分を裏切った家臣は原則全て追放し、関ケ原の戦いでも敵に回った西軍の88家もの大名の領地も屋敷も全て没収するなど、厳しい処分を下している。
「ぶれずに大胆な決断をすることは、リーダーに求められる条件です」(河合氏)
家康は確固たる方針のもと、法制度を定め長期政権を樹立したので、財閥の創業者に向いていると思うという。
ここまで三英傑に学ぶ点を見てきた。では、この3人をリーダーとして採点すると何点か? 歴史学者で東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏に聞いた。