(セリーヌ)現在、このトンネルで生活している人はもういません。でも過去の話ではなく、いまの話として描きました。彼らはいまも存在する。私たちはすべてを「そのまま」に再現したかったんです。劇中で母親ニッキーは、わずかに差し伸べられる支援の手から執拗に逃げます。彼らを「信用できない」という思いがあるからです。ニューヨークでは住所がないと、法律上、親としての能力がないとみなされてしまいます。普通のシングルマザーの家庭でも困難なこと──仕事があって約束の時間に子どもを迎えに行けない、などが「ネグレクト」になってしまう。
(ローガン)一度、児童福祉で保護された子どもが、再び親元に戻ることは難しいのです。
(セリーヌ)本作ではみなさんにこの母子の状況を「体感」してほしいと思っています。社会にある問題をボランティアなどで体感することは大切だと私は思います。それはさまざまな問題に「顔」をつけることだから。関わることでホームレスや難民問題の当事者も一人一人の人間なのだ、と気づくきっかけを作ってくれるのです。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2022年8月15-22日合併号